「利用者:Notorious/サンドボックス/コンテスト」の版間の差分

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<br>「祖父の介護で、見たことがあるんです。ちょうどこんな感じでした。味も悪くはないですよ」
<br>「祖父の介護で、見たことがあるんです。ちょうどこんな感じでした。味も悪くはないですよ」
<br> 空腹を覚えていたので、そのまま一本飲み干してしまう。権田も、おっかなびっくり口に運んでいた。
<br> 空腹を覚えていたので、そのまま一本飲み干してしまう。権田も、おっかなびっくり口に運んでいた。
<br> 腹ごなしが済むと、倉庫内の調査に取りかかった。手分けして積み上がった瓶を精査していく。ほどなく、水と流動食の二種類の瓶があることがわかった。それらは一応場所が分かれていて、区別がつくことがわかった。一方、どの瓶にもラベルの類は無い。僕は、瓶の山に分け入って、数着の着替えを見つけた。権田は、缶詰の一角と一本の缶切りを発見した。
<br> 腹ごなしが済むと、倉庫内の調査に取りかかった。手分けして積み上がった瓶を精査していく。ほどなく、水と流動食の二種類の瓶があることがわかった。それらは一応場所が分かれていて、区別がつくことがわかった。一方、どの瓶にもラベルの類は無い。僕は、瓶の山に分け入って、数着の着替えと三つの救急箱を見つけた。権田は、缶詰の一角と四本の缶切りを発見した。
<br> それは、捜索開始から30分ほど経ったときだった。僕は瓶の山の反対側へぐるりと回った。すると、床に何かが落ちているのが見えた。いや、置かれていたのかもしれない。ぽっかりと空いた一角の床に、それは無造作に置かれていた。それを拾い上げ、僕は思わず叫んだ。
<br> それは、捜索開始から30分ほど経ったときだった。僕は瓶の山の反対側へぐるりと回った。すると、床に何かが落ちているのが見えた。いや、置かれていたのかもしれない。ぽっかりと空いた一角の床に、それは無造作に置かれていた。それを拾い上げ、僕は思わず叫んだ。
<br>「先輩、鍵です! 鍵がありました!」
<br>「先輩、鍵です! 鍵がありました!」
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 最後に残った、調べるべき場所。謎のドアの前で、僕は権田を肩車していた。
 最後に残った、調べるべき場所。謎のドアの前で、僕は権田を肩車していた。
 
<br>「届きます?」
<br>「全然だ。佐藤、肩の上に立たせろ」
<br>「えっ?」
<br> 止める間もなく、権田は僕の頭を持って体を安定させながら、器用に立ち上がる。僕の両肩に、先輩の両足が乗っている。僕はドアに手をついて体を支えた。
<br>「うーん、まだまだ足りないな。よし、下りるぞ」
<br> 権田は意外と軽い身のこなしで、ひょいと床に飛び降りた。こっちがヒヤヒヤする。
<br> 倉庫で鍵を見つけた僕らは、この部屋に戻り、ドアに対峙した。目を凝らすと、天井付近にあるのが鍵穴であることがわかった。約6メートル上方。なんとか鍵穴に手が届かないかと頑張ってみたが、到底高さが足りない。鍵はあるのに、それを挿して回せない。僕は深い落胆に包まれた。
<br>「おい、落ち込んでじゃねえ。ドアを破れないか試してみるぞ」
<br> 権田はドアの前で仁王立ちして言った。僕は慌てて立ち上がり、権田に並ぶ。せーのでドアに肩から体当たりした。鈍い音が響く。何度も並んでタックルを繰り返す。
<br> 2分後、僕らは肩を押さえて床に倒れていた。ドアは1ミリだって揺らぎもしない。破るなんて、到底できそうもなかった。
<br>「……先輩、倉庫から救急箱取ってきます」
<br>「おう……」
<br> 僕は痛む肩を押さえて倉庫へと歩いた。さっき見つけた救急箱を一つ持ち、ついでに水の瓶も一本掴み、引き返す。倉庫を出て、廊下を渡って、小部屋へと入ったときだった。ぐんと横に手が引っ張られ、耐えきれずにその場に倒れる。続いて、ゴンッという衝撃音。すぐに小部屋の向こうのドアが開き、権田が現れた。
<br>「大丈夫か、何があった⁈」
<br> 倒れた僕に駆け寄ってくる。しかし、僕は横の壁をぼんやりと見遣っていた。僕の視線を追って、権田がそれに気づいた。
<br>「ありゃあ……どうなってんだ?」
<br> 壁に、瓶と救急箱がくっついていた。僕の手を離れて真横にすっ飛んだそれらは、その高さのまま壁にぶつかって床に落ちていない。
<br> 権田が壁の瓶を掴み、壁から引き離そうとしたが、全く離れない。僕も立ち上がって加勢したが、結果は変わらなかった。救急箱も、言わずもがなである。
<br>「磁力か……」
<br>「何?」
<br>「この小部屋の壁が、磁石になっているんです。相当な磁力の強さですから、電磁石だと思います」
<br>「救急箱と瓶は鉄でできているから、引き寄せられたってことか。だが、何のためにこんな仕掛けがされているんだ?」
<br>「さあ……」
<br> 仕方がないから、くっついたものはそのままにして、僕らは倉庫へと向かった。別の救急箱を開き、湿布を取り出して各々肩に貼る。
<br>「包帯に絆創膏、止血帯、薬も多い……。大抵の怪我や病気なら、対処できるな」
<br> 水の瓶をらっぱ飲みしながら、権田が言った。この先輩は医者の家の出身で、医療知識がそれなりにある。
<br> 水を飲むと尿意を催したので、僕は一言断ってトイレに行った。小便を終えると、水を流して手を洗う。水道はちゃんと通っているようだ。その時、ふと気がついた。トイレットペーパーが無いのだ。倉庫にも見当たらなかった。
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