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頬に、固く冷たい感触。四肢にも、冷たさを感じる。胸に体重がかかっており、呼吸が少し苦しい。そう思うと、みるみるうちに息のしづらさが強く感じられるようになって、意識が覚醒した。 | 頬に、固く冷たい感触。四肢にも、冷たさを感じる。胸に体重がかかっており、呼吸が少し苦しい。そう思うと、みるみるうちに息のしづらさが強く感じられるようになって、意識が覚醒した。 | ||
<br> | <br> とにかく僕は床でうつ伏せになっているのだろう。交番の仮眠室のベッドから転がり落ちたのか、あるいは寮の床でつい寝落ちてしまったのか。しかし、開いた目に入ってきた景色は、それらの予想が現実と違っていることを雄弁に語っていた。塵一つ落ちていない、真っ白な床。交番でも寮の自室でもない、見覚えのない風景だ。 | ||
<br> 両手を床につけ、腕立て伏せの要領で身を起こした。伸ばしきっていた脚を畳み、その場に胡座をかく。視点が高くなったことで、周りがより見えるようになった。正面には、床と同じく白い壁がそり立っている。そして、壁には細い切れ目が入っている。それはまっすぐ上に走り、直角に曲がって床と平行になり、今度は真下へと伸び、壁を長方形に切り取っている。 | <br> 両手を床につけ、腕立て伏せの要領で身を起こした。伸ばしきっていた脚を畳み、その場に胡座をかく。視点が高くなったことで、周りがより見えるようになった。正面には、床と同じく白い壁がそり立っている。そして、壁には細い切れ目が入っている。それはまっすぐ上に走り、直角に曲がって床と平行になり、今度は真下へと伸び、壁を長方形に切り取っている。 | ||
<br> これは、ドアか。すぐには気づけなかったのは、理由があった。大きいのだ。ドアの上端は天井間際にあり、床から5メートルほどの高さにある。天井もそれほど高いのだ。それに、ノブがない。しかし、ドアの上端ギリギリに位置している何か。四角いし何か書かれているようだが、あれは……テンキー? | <br> これは、ドアか。すぐには気づけなかったのは、理由があった。大きいのだ。ドアの上端は天井間際にあり、床から5メートルほどの高さにある。天井もそれほど高いのだ。それに、ノブがない。しかし、ドアの上端ギリギリに位置している何か。四角いし何か書かれているようだが、あれは……テンキー? | ||
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<br> はっと後ろを振り向くと、先輩巡査の権田が座っているのに気づいた。壁に備え付けられた腰掛けのようなものがあるらしい。3年先輩の権田とは、バディを組んで5年になる。警察官の仕事や心構えを、みっちりと叩き込まれてきたものだ。多くのチンピラを投げ飛ばしてきた、鍛え上げた体軀をずしりと構えている。しかし、心なしか迫力が減ったような気がした。すぐにその原因に気づく。権田は警察官の制服のシャツとズボンを着けている。だが、帽子やベスト、ネクタイまでもが見当たらない。もちろん、警棒や拳銃を入れたホルスターもない。いつもの制服姿でないから、些か威厳に欠けて見えるのだ。 | <br> はっと後ろを振り向くと、先輩巡査の権田が座っているのに気づいた。壁に備え付けられた腰掛けのようなものがあるらしい。3年先輩の権田とは、バディを組んで5年になる。警察官の仕事や心構えを、みっちりと叩き込まれてきたものだ。多くのチンピラを投げ飛ばしてきた、鍛え上げた体軀をずしりと構えている。しかし、心なしか迫力が減ったような気がした。すぐにその原因に気づく。権田は警察官の制服のシャツとズボンを着けている。だが、帽子やベスト、ネクタイまでもが見当たらない。もちろん、警棒や拳銃を入れたホルスターもない。いつもの制服姿でないから、些か威厳に欠けて見えるのだ。 | ||
<br> そこまで考えて、自分の服装も似たり寄ったりなことに気づいた。業務中にこんな服装となることはない。下手をすれば懲戒ものだ。いや、そもそも仕事中ではないのか? ならなぜ権田と共にいるのだ? いや待て、そんなことより。ようやく、もっと早くに浮かんでいてしかるべき疑問が、奔流となって僕の脳に襲いかかってきた。僕はそんな数多の疑問符をまとめて、とりあえずそこにいる権田にぶつけてみた。 | <br> そこまで考えて、自分の服装も似たり寄ったりなことに気づいた。業務中にこんな服装となることはない。下手をすれば懲戒ものだ。いや、そもそも仕事中ではないのか? ならなぜ権田と共にいるのだ? いや待て、そんなことより。ようやく、もっと早くに浮かんでいてしかるべき疑問が、奔流となって僕の脳に襲いかかってきた。僕はそんな数多の疑問符をまとめて、とりあえずそこにいる権田にぶつけてみた。 | ||
<br> | <br>「先輩、ここってどこですか?」 | ||
<br> 返ってきた答えは、そっけないものだった。 | <br> 返ってきた答えは、そっけないものだった。 | ||
<br>「知らん」 | <br>「知らん」 | ||
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<br> そう言われて、急激に記憶が蘇ってきた。今の今まで忘れていたのが信じられないくらい、鮮明に。 | <br> そう言われて、急激に記憶が蘇ってきた。今の今まで忘れていたのが信じられないくらい、鮮明に。 | ||
<br> 人身売買の拠点となっているパブがある。そういう匿名の通報を受けて、権田と僕はそこへと急行した。昼の2時ごろだった。通報の信憑性には疑問が残っていたため、あくまで警邏の一環として行った。交番の所轄範囲にそのパブはあったため、通常のパトロールという建前が使えたのだ。 | <br> 人身売買の拠点となっているパブがある。そういう匿名の通報を受けて、権田と僕はそこへと急行した。昼の2時ごろだった。通報の信憑性には疑問が残っていたため、あくまで警邏の一環として行った。交番の所轄範囲にそのパブはあったため、通常のパトロールという建前が使えたのだ。 | ||
<br> | <br> しかし、地下に降りてパブに入った瞬間、僕たちは屈強な男たちに襲われた。警棒を抜く間もなく、目出し帽を被った男たちに、口に布を押しつけられた。どうやら薬が染みていたらしく、僕はすぐに意識を失ってしまった。おそらく権田も同じだろう。いくら逮捕術や柔道を心得た警察官といえど、大勢に不意打ちされたのでは、勝ち目はなかった。 | ||
<br>「ミイラ取りがミイラになってしまうとは……。もっと警戒しておくべきだった、くそっ」 | <br>「ミイラ取りがミイラになってしまうとは……。もっと警戒しておくべきだった、くそっ」 | ||
<br> だが、権田は僕みたいに責任逃れできないらしい。 | <br> だが、権田は僕みたいに責任逃れできないらしい。 | ||
<br>「パブの奴らが、僕らを攫ってここに連れてきたってことですかね」 | <br>「パブの奴らが、僕らを攫ってここに連れてきたってことですかね」 | ||
<br>「それが妥当な解釈だろうな。ただし、連れてきただけじゃない。{{傍点|文章=閉じ込めた}}んだ」 | <br>「それが妥当な解釈だろうな。ただし、連れてきただけじゃない。{{傍点|文章=閉じ込めた}}んだ」 | ||
<br> | <br> 権田がここに座して待っている以上、薄々そうではないかと思っていた。しかし、明確に突きつけられると、やはり衝撃を受けた。まだ、心のどこかに、事態を楽観していた自分がいたのだろう。僕は、誘拐監禁事件の被害者となったのだ。 | ||
まずは、大声を上げてみた。 | まずは、大声を上げてみた。 | ||
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<br>「誰かいませんかあ!」 | <br>「誰かいませんかあ!」 | ||
<br> 何の返答も得られないまま5分ほど経ち、この試みはいたずらに喉を痛めただけだった。外を偶然通りがかった市民とはいかずとも、せめて犯人側からの説明だけでもあって欲しかった。自分たちが何のためにこんなところにいるのかわからないというのは、かなり不安にさせられる。 | <br> 何の返答も得られないまま5分ほど経ち、この試みはいたずらに喉を痛めただけだった。外を偶然通りがかった市民とはいかずとも、せめて犯人側からの説明だけでもあって欲しかった。自分たちが何のためにこんなところにいるのかわからないというのは、かなり不安にさせられる。 | ||
<br> | <br> とりあえず状況を把握しようということになった。権田はいち早く目覚めて、少しこの部屋の探検もしたようだが、全貌を把握するには至っていないとのこと。ただし、外に通じていそうな箇所は、目の前の高いドアだけだったという。 | ||
<br> | <br> まずは自分たちのことから。着ている衣服は、下着とシャツとズボンくらい。靴下すら履いていなかった。持ち物もほとんどない。ズボンのポケットに入れていたハンカチはあったが、腕時計は消えていた。体にも不調や違和感はない。怪しい番号が彫られていたり、知らぬ間に臓器を摘出されたりはしていないようだ。だが、服を脱いで隅々までチェックするわけにはいかないから、鼠径部にICチップを埋め込まれたりしている可能性は拭えない。後で見てみよう。とにかく、ほとんどの所持品や衣服が奪われていることがわかった。携帯や無線ももちろん無いから、外部と連絡を取る術はない。 | ||
<br> 次に、この部屋だ。広さは十畳くらいあるだろうか。床も壁も天井も真っ白で、清潔さを感じる。そして、異様に天井が高い。やはり5、6メートルはあるだろうか。もっとも、白一色だから目測が取りづらい。調度は、天井のライトと、権田が腰掛けていたベッドのみ。ベッドは飛び出た壁にマットレスを乗せただけのようで、枕も掛け布団も無い。ただし、そこそこ大きい。クイーンベッドくらいの広さはある。壁の一部であるから、権田がベッドを動かそうとしても、叶わなかった。マットレスを剥がそうともしたが、ベッドに固定されているらしく、これもできなかった。 | <br> 次に、この部屋だ。広さは十畳くらいあるだろうか。床も壁も天井も真っ白で、清潔さを感じる。そして、異様に天井が高い。やはり5、6メートルはあるだろうか。もっとも、白一色だから目測が取りづらい。調度は、天井のライトと、権田が腰掛けていたベッドのみ。ベッドは飛び出た壁にマットレスを乗せただけのようで、枕も掛け布団も無い。ただし、そこそこ大きい。クイーンベッドくらいの広さはある。壁の一部であるから、権田がベッドを動かそうとしても、叶わなかった。マットレスを剥がそうともしたが、ベッドに固定されているらしく、これもできなかった。 | ||
<br> 部屋の床の端には、幅10センチほどの排水溝が、四方の壁際に沿うようにして設置されていた。この部屋の床が、排水溝にぐるりと囲われている格好である。穴の開いた金属の蓋が嵌まっている、プールサイドなんかにあるタイプのもの。蓋を外せないか試してみたが、素手では到底できそうになかった。この部屋に水気はないのに、排水溝に何の必要性があるのだろう。 | <br> 部屋の床の端には、幅10センチほどの排水溝が、四方の壁際に沿うようにして設置されていた。この部屋の床が、排水溝にぐるりと囲われている格好である。穴の開いた金属の蓋が嵌まっている、プールサイドなんかにあるタイプのもの。蓋を外せないか試してみたが、素手では到底できそうになかった。この部屋に水気はないのに、排水溝に何の必要性があるのだろう。 | ||
僕らはいよいよ、壁にあるドアに目を向けた。この部屋には、僕が起きてすぐ見つけたものとは別に、もう一つドアがある。こちらは高さも普通でレバーもついている。権田によれば、その奥にはまた別の部屋があったらしい。まず、僕らはそのドアの奥を調べることにした。謎のドアを後回しにしたのは、閉じ込められているという事実に向き合うのを、遅らせたかっただけかもしれなかったが。 | 僕らはいよいよ、壁にあるドアに目を向けた。この部屋には、僕が起きてすぐ見つけたものとは別に、もう一つドアがある。こちらは高さも普通でレバーもついている。権田によれば、その奥にはまた別の部屋があったらしい。まず、僕らはそのドアの奥を調べることにした。謎のドアを後回しにしたのは、閉じ込められているという事実に向き合うのを、遅らせたかっただけかもしれなかったが。 | ||
<br> | <br> 普通のドアのところへ行き、レバーを下ろして引き開ける。滑らかで、何の変哲もない挙動。その奥は、小さな部屋だった。何もない、ただの空間。向かいの壁には、同じようなドアがまたある。戸惑いながらも、部屋を渡ってそのドアを開ける。今度は向こうへと開いた。 | ||
<br> | <br> ドアの向こうは、今までより天井がぐっと低くなっていた。とはいえ、2メートル半くらいだから、普通の高さなのだが。どうやら、廊下のようだった。僕が先頭を切り、その後を権田が続く。素足のひたひたという音の他には、物音はカサリともしない。未知の空間への恐怖に、否応なく心拍が速くなる。 | ||
<br> | <br> 細長い廊下の中途。左右に向かい合うようにしてドアがあり、突き当たりにもう一つドアがある。僕は廊下を進み、覚悟を決めて右にあるドアを押し開いた。 | ||
<br> | <br> そこには、トイレがあった。あまりに俗物的な設備に、思わず拍子抜けしてしまった。入ると、人感センサーで勝手に電気がつく。和式便座が一つと、壁に据え付けられたステンレスの手洗い場。そして、便器の横に、もう一つ床に埋まった水槽がある。何に使うのだろう? トイレは概して清潔で、監禁場所にはそぐわないくらいだ。天井には換気口があったが、蓋を開けることはできなかった。 | ||
<br> | <br> トイレを出て、今度は向かいのドアを開ける。こっちは、脱衣所だった。とはいえ、これも備え付けの棚があるだけだ。真っ白なタオルが2枚、置かれてある。横にあるスライドドアを開けると、やはり風呂があった。シャワーと浴槽がある。シャンプーの類もあるらしい。寮の風呂より広い。まるで田舎の旅館に来たかのような錯覚に陥る。本当に僕らは監禁されているんだろうかと、疑問に思ってしまう。 | ||
僕らは風呂を出て、廊下の突き当たりへと向かった。そこにあるドアを開く。そこには、異様な光景が広がっていた。何か大きな山のような影が、見渡す限りにそそり立っている。その部屋は、広い倉庫だった。今までのどの部屋よりも広く、警察学校の教練場くらい広いんじゃないだろうか。山の正体は、倉庫の中に所狭しと積み上がった大量のものだった。近寄って手にとってみると、それは瓶だった。ずしりと重い。権田が、一本の瓶の蓋を開けていた。匂いを嗅ぎ、それを口に運び、 | |||
<br>「水だ」 | <br>「水だ」 | ||
<br> | <br> と言ってまた呷った。権田の喉がごくごくと動くのを見て、自分の喉がカラカラであることに気づく。僕も近くの瓶を拾って蓋をひねり、中の液体を飲んだ。ところが、予想外の塩味がして、思わず噎せる。 | ||
<br>「大丈夫か佐藤!」 | <br>「大丈夫か佐藤!」 | ||
<br>「ゴホッ、ええ、ちょっと驚いただけです。中が水じゃなかったみたいで。毒とかではないみたいなんで安心してください、先輩」 | <br>「ゴホッ、ええ、ちょっと驚いただけです。中が水じゃなかったみたいで。毒とかではないみたいなんで安心してください、先輩」 | ||
50行目: | 50行目: | ||
<br> 空腹を覚えていたので、そのまま一本飲み干してしまう。権田も、おっかなびっくり口に運んでいた。 | <br> 空腹を覚えていたので、そのまま一本飲み干してしまう。権田も、おっかなびっくり口に運んでいた。 | ||
<br> 腹ごなしが済むと、倉庫内の調査に取りかかった。手分けして積み上がった瓶を精査していく。ほどなく、水と流動食の二種類の瓶があることがわかった。それらは微妙に形が異なっていて、区別がつくことがわかった。一方、どの瓶にもラベルの類は無い。僕は、瓶の山に分け入って、数着の着替えと三つの救急箱を見つけた。権田は、缶の一角と四本の缶切り、それから1ダースくらいのボディーソープなどのボトルを発見した。 | <br> 腹ごなしが済むと、倉庫内の調査に取りかかった。手分けして積み上がった瓶を精査していく。ほどなく、水と流動食の二種類の瓶があることがわかった。それらは微妙に形が異なっていて、区別がつくことがわかった。一方、どの瓶にもラベルの類は無い。僕は、瓶の山に分け入って、数着の着替えと三つの救急箱を見つけた。権田は、缶の一角と四本の缶切り、それから1ダースくらいのボディーソープなどのボトルを発見した。 | ||
<br> | <br> 天井には、最初の部屋と同じように、ライトが埋め込まれていた。それ以外は壁に囲われているだけで、窓はおろか換気口すら見つからなかった。 | ||
<br> それは、捜索開始から30分ほど経ったときだった。僕は瓶の山の反対側へぐるりと回った。すると、床に何かが落ちているのが見えた。いや、置かれていたのかもしれない。ぽっかりと空いた床の一隅に、それは無造作に置かれていた。それを拾い上げ、僕は思わず叫んだ。 | |||
<br>「先輩、カードです! 番号が書かれてます!」 | <br>「先輩、カードです! 番号が書かれてます!」 | ||
<br> | <br> 瓶を倒しながらすっ飛んできた権田が、僕の手の中にあるカードをまじまじと見つめる。その手の平サイズのカードはプラスチック製で、「3849」とだけ書いてあった。それ以外に、装飾も記述も無い。この番号は…… | ||
<br>「暗証番号?」 | <br>「暗証番号?」 | ||
<br> | <br> そう言ってから、僕らは数瞬目を合わせる。この建造物の中に暗証番号が必要となる場所があるならば、それは一ヶ所しかないだろう。僕らは倉庫の捜索を打ち切り、最初の部屋に駆け戻った。 | ||
{{転換}} | {{転換}} | ||
62行目: | 63行目: | ||
<br>「全然だ。佐藤、肩の上に立たせろ」 | <br>「全然だ。佐藤、肩の上に立たせろ」 | ||
<br>「えっ?」 | <br>「えっ?」 | ||
<br> | <br> 止める間もなく、権田は僕の頭を持って体を安定させながら、器用に立ち上がる。僕の両肩に、権田の裸足が乗っている。僕はドアに手をついて体を支えた。 | ||
<br>「うーん、まだまだ足りないな。よし、下りるぞ」 | <br>「うーん、まだまだ足りないな。よし、下りるぞ」 | ||
<br> 権田は意外と軽い身のこなしで、ひょいと床に飛び降りた。こっちがヒヤヒヤする。 | <br> 権田は意外と軽い身のこなしで、ひょいと床に飛び降りた。こっちがヒヤヒヤする。 | ||
72行目: | 73行目: | ||
<br>「おう……」 | <br>「おう……」 | ||
僕は痛む肩を押さえて倉庫へと歩いた。さっき見つけた救急箱を一つ持ち、ついでに水の瓶も一本掴み、引き返す。倉庫を出て廊下を渡り、小部屋へと入ったときだった。ぐんと横に手が引っ張られ、そのまま引き倒される。続いて、ゴンッという衝撃音。すぐに小部屋の向こうのドアが開き、権田が現れた。 | |||
<br>「大丈夫か、何があった⁈」 | <br>「大丈夫か、何があった⁈」 | ||
<br> 倒れた僕に駆け寄ってくる。しかし、僕は横の壁をぼんやりと見遣っていた。僕の視線を追って、権田がそれに気づいた。 | <br> 倒れた僕に駆け寄ってくる。しかし、僕は横の壁をぼんやりと見遣っていた。僕の視線を追って、権田がそれに気づいた。 | ||
81行目: | 82行目: | ||
<br>「何?」 | <br>「何?」 | ||
<br>「この小部屋の壁が、磁石になっているんです。相当な磁力の強さですから、電磁石だと思います」 | <br>「この小部屋の壁が、磁石になっているんです。相当な磁力の強さですから、電磁石だと思います」 | ||
<br> | <br>「救急箱と瓶は鉄でできているから、引き寄せられたってことか。だが、何のためにこんな仕掛けがあるんだ?」 | ||
<br>「さあ……」 | <br>「さあ……」 | ||
<br> 仕方がないから、くっついたものはそのままにして、僕らは倉庫へと向かった。別の救急箱を開き、湿布を取り出して各々肩に貼る。 | <br> 仕方がないから、くっついたものはそのままにして、僕らは倉庫へと向かった。別の救急箱を開き、湿布を取り出して各々肩に貼る。 | ||
<br>「包帯に絆創膏、止血帯、薬も多い……。大抵の怪我や病気なら、対処できるな」 | <br>「包帯に絆創膏、止血帯、薬も多い……。大抵の怪我や病気なら、対処できるな」 | ||
<br> | <br> 水の瓶をらっぱ飲みしながら、権田が救急箱を漁っている。この先輩は医者の家の出身で、医療知識がそれなりにある。これからどんな危険が待ち受けているかわからないから、大変心強い。 | ||
水を飲むと尿意を催したので、僕は一言断ってトイレに行った。小便を済ませると、水を流して手を洗う。水を流すと、傍らの謎の水槽の水も流れた。ともあれ、水道はちゃんと通っているようだ。そう安心した時、ふと気がついた。トイレットペーパーが無いのだ。そういえば、倉庫にも見当たらなかったはず。狭いトイレ内を探すと、先端にスポンジのついた鉄の棒を見つけた。僕の脳裏に、古代ローマを舞台とした映画の、トイレのシーンが思い浮かぶ。確か、海綿が先についた棒で汚れを拭き取っていたような……。まさか、これがトイレットペーパーの代わりなのか。横の水槽は、スポンジを洗うためのものということか。ちょっと不衛生だろう。便意を覚えるまでに、ここを脱出できればいいんだが。 | 水を飲むと尿意を催したので、僕は一言断ってトイレに行った。小便を済ませると、水を流して手を洗う。水を流すと、傍らの謎の水槽の水も流れた。ともあれ、水道はちゃんと通っているようだ。そう安心した時、ふと気がついた。トイレットペーパーが無いのだ。そういえば、倉庫にも見当たらなかったはず。狭いトイレ内を探すと、先端にスポンジのついた鉄の棒を見つけた。僕の脳裏に、古代ローマを舞台とした映画の、トイレのシーンが思い浮かぶ。確か、海綿が先についた棒で汚れを拭き取っていたような……。まさか、これがトイレットペーパーの代わりなのか。横の水槽は、スポンジを洗うためのものということか。ちょっと不衛生だろう。便意を覚えるまでに、ここを脱出できればいいんだが。 | ||
93行目: | 94行目: | ||
<br>「そういや、室温も季節にしちゃあ暖かい。これもコントロールされてるみたいだな」 | <br>「そういや、室温も季節にしちゃあ暖かい。これもコントロールされてるみたいだな」 | ||
<br>「ええ。全館空調ってやつでしょうか。どこかに空調ダクトがあるかもしれません」 | <br>「ええ。全館空調ってやつでしょうか。どこかに空調ダクトがあるかもしれません」 | ||
<br> | <br>「どうせ、天井か壁の裏ってとこだろうな。脱出の足掛かりにはなりそうにない。しっかし、ここはかなりの金がかかってるな」 | ||
<br>「この倉庫内の水と食料だけでも、かなりの量がありますからね」 | <br>「この倉庫内の水と食料だけでも、かなりの量がありますからね」 | ||
<br>「まあそれだけの金があるから、人攫いなんてできるんだろうがな。そうだ、汗をかいたから、先に風呂に入ってきてもいいか?」 | <br>「まあそれだけの金があるから、人攫いなんてできるんだろうがな。そうだ、汗をかいたから、先に風呂に入ってきてもいいか?」 | ||
107行目: | 108行目: | ||
<br>「その前にここから出られるといいですね」 | <br>「その前にここから出られるといいですね」 | ||
<br>「ははっ、そうだったな」 | <br>「ははっ、そうだったな」 | ||
<br> | <br> 僕は権田と入れ替わるようにして風呂に向かった。脱衣所で服を脱ぐと、権田の脱いだ服が棚にまとめて置かれていたから、その横に離して自分の服を置く。スライドドアを開いて風呂に入った。シャワーをひねると、さっきまで権田が使っていたからか、いきなり温水が出た。もう少し湯を熱くしようと、レバーをひねる。湯気の中で目を凝らすと、その目盛りはなんと70℃まであった。これじゃあ給湯器というより、ちょっとした湯沸かし器である。適温の湯を全身に浴びると、強ばった筋肉がほぐれていく。監禁されているというのに、こうして温かいシャワーを浴びていると、リラックスして安心すら覚えてくるのだから、豪胆というか能天気というか。 | ||
<br> | <br> 職務中の警官が消えたのである。今頃、巡査部長が異変に気づき、外は大騒ぎになっているかもしれない。しかし、こうしていると、監禁されているという実感はどうしても希薄で、そんな自分が逆に不安になってくる。冷静沈着な権田が共にいるというのも大きいのだろう。もし一人きりで閉じ込められていたら、恐怖に襲われて圧し潰されていたかもしれない。 | ||
<br> | <br> 風呂の中に、椅子や風呂桶は無かった。ボディソープやシャンプーを使おうとして気づいたが、ボトルが重い。これも鉄製だろうか。おそらく倉庫にあったものも同じなのだろう。中身は至って普通のようだ。小さな剃刀もあったので、それで髭を剃る。この剃刀も鉄製なのか、大きさの割に重量がある。髭の伸び方からして、地下のパブで攫われてから一日は経っていないようだ。僕たちは、攫われたその日のうちにここへ運ばれたということか。襲撃を受けてから、案外数時間しか経っていないかもしれない。 | ||
<br> 欲を言えば湯舟につかりたかったが、今日はやめておこう。そう考えてから、ここに明日以降もいることを想定している自分に気づき、驚いた。ここが安全な場所とはまだ限らないのだ。気分を変えるために顔に湯をかけ、僕は風呂から出た。棚の隅のタオルを取って、体を拭く。倉庫から持ってきた着替えは、誰も袖を通していない新品らしく、心地良い肌触りだった。薄いTシャツとトレーニングパンツ。何となく外部から助けがくることはないと思い込んでいたが、もし今助けが来たら、くつろいでいるようにしか見えないだろうな、と一人苦笑する。 | |||
廊下に出ると、風呂のドアが開いた音を聞きつけたのか、権田が小部屋から手招きしていた。小部屋を通り抜けるときは緊張したが、今度は何ともなく通過できた。着替えの服に鉄が織り込まれているようなことはないようだ。 | 廊下に出ると、風呂のドアが開いた音を聞きつけたのか、権田が小部屋から手招きしていた。小部屋を通り抜けるときは緊張したが、今度は何ともなく通過できた。着替えの服に鉄が織り込まれているようなことはないようだ。 | ||
153行目: | 155行目: | ||
<br> 権田はうーんと唸った。 | <br> 権田はうーんと唸った。 | ||
<br>「しかし布だからなあ。折り畳んでも、大して高さは稼げない。全部の服とタオル、それからシーツも使っても、30センチ稼げるかどうかってところだな」 | <br>「しかし布だからなあ。折り畳んでも、大して高さは稼げない。全部の服とタオル、それからシーツも使っても、30センチ稼げるかどうかってところだな」 | ||
<br>「救急箱の中身はどうです?」 | |||
<br>「薬の瓶は鉄だ。湿布や包帯なんかは使えるが、大した足しにはならない」 | |||
他に何か使える物はなかっただろうか。必死に考えて、一つ思いついた。 | 他に何か使える物はなかっただろうか。必死に考えて、一つ思いついた。 | ||
169行目: | 173行目: | ||
<br> 僕らは同時に天井を見上げた。目覚めたときより少し光量を落とした電灯は、天井に埋め込まれている。天井はつるりと滑らかで、何かが引っかかるような突起は全くない。 | <br> 僕らは同時に天井を見上げた。目覚めたときより少し光量を落とした電灯は、天井に埋め込まれている。天井はつるりと滑らかで、何かが引っかかるような突起は全くない。 | ||
<br>「まだだ。小部屋のドアは外開き。あれを開けて登れば、テンキーに届くかも……」 | <br>「まだだ。小部屋のドアは外開き。あれを開けて登れば、テンキーに届くかも……」 | ||
<br> | <br> ベッドを飛び降りて、権田は小部屋のドアを開け、すぐに閉めてすごすごと戻ってきた。そもそも、小部屋はドアがある壁から離れた位置にある。テンキーには、距離も高さも全然足りない。 | ||
<br> いや、諦めるにはまだ早い。 | |||
<br>「あのテンキー自体はどうです? 服か包帯で紐を作って、それをテンキーの上に引っ掛けるんです。テンキーを定滑車にして、紐の一方の端を引っ張ってもう一方にしがみついた一人を上に送るんです」 | |||
<br> 権田はしばし黙ってテンキーの方を見上げていたが、 | |||
<br>「テンキーで出っ張っている部分はせいぜい5センチてなところだ。それに、プラスチックカバーは若干だが前の方に傾斜しているように見える。人一人を持ち上げる滑車としては、使えないだろうな」 | |||
<br> と否定した。どうやら、このアイデアも不発のようだ。 | |||
「何か長い棒があれば、ボタンを押せるんですけど……」 | 「何か長い棒があれば、ボタンを押せるんですけど……」 | ||
212行目: | 221行目: | ||
照明は薄明るいという域に達し、脱出方法の検討は行き詰まっていた。半ば自棄になって、僕は言ってみる。 | 照明は薄明るいという域に達し、脱出方法の検討は行き詰まっていた。半ば自棄になって、僕は言ってみる。 | ||
<br> | <br>「実は、3849って打ち込むテンキーは、実は他の場所にあるんじゃないですか? そうだ、倉庫はまだ探し切れてない。瓶を全部どかせば、床にドアがついてるかもしれませんよ」 | ||
<br>「……探す価値はあるな。明日、やってみよう」 | <br>「……探す価値はあるな。明日、やってみよう」 | ||
<br> こんなやけっぱちな放言にも権田はちゃんと答えてくれて、申し訳なくなった。いくら脱出の見込みがなくたって、理性的にならねば。幸い、食料はたっぷりある。少なくとも今はまだ、命の危険が差し迫っているわけではないのだから。 | <br> こんなやけっぱちな放言にも権田はちゃんと答えてくれて、申し訳なくなった。いくら脱出の見込みがなくたって、理性的にならねば。幸い、食料はたっぷりある。少なくとも今はまだ、命の危険が差し迫っているわけではないのだから。 | ||
220行目: | 229行目: | ||
<br>「やっぱりそれは疑問だよな。{{傍点|文章=なぜ閉じ込めたのか}}。この答えが得られれば、脱出のヒントになるかもしれない。よし、今度はこれについて考えてみよう」 | <br>「やっぱりそれは疑問だよな。{{傍点|文章=なぜ閉じ込めたのか}}。この答えが得られれば、脱出のヒントになるかもしれない。よし、今度はこれについて考えてみよう」 | ||
<br> なぜ奴らは僕らを攫い、閉じ込めたのか。 | <br> なぜ奴らは僕らを攫い、閉じ込めたのか。 | ||
<br>「ここにはモニターが無いので、きっとデスゲームは始まりませんね」 | |||
<br>「デスゲームをするとはっきり伝えてくれた方がマシだったかもしれんなあ。せめて狙いを置き手紙にでも<ruby>認<rt>したた</rt></ruby>めてくれればよかったのに」 | |||
<br> 冗談はさておいて、犯人グループの目的を想像してみる。 | |||
<br>「普通は、身代金目的とかでしょうけど……」 | <br>「普通は、身代金目的とかでしょうけど……」 | ||
<br> | <br>「もしそうなら、こんな手厚い待遇しなくてもいいよな。椅子とかに縛り付けて、どっかの廃墟に放り込んでりゃいいんだから」 | ||
<br>「人を攫う目的なら色々ありそうですけど、こんな建物に中途半端に閉じ込めておく理由がわかりませんね」 | <br>「人を攫う目的なら色々ありそうですけど、こんな建物に中途半端に閉じ込めておく理由がわかりませんね」 | ||
<br>「この建物だけでも、相当な手間と金がかかってる。ここは人を監禁するために建てられたってことでいいんだよな? 何か別の理由で建設されたものを監禁に転用したとは考えづらいよな」 | <br>「この建物だけでも、相当な手間と金がかかってる。ここは人を監禁するために建てられたってことでいいんだよな? 何か別の理由で建設されたものを監禁に転用したとは考えづらいよな」 | ||
<br>「そうですね。でも、ただ監禁するだけなら、内から開けられる鍵なんてつけなきゃいいんです。何か理由があってこんな構造をしているとは思うんですけど……」 | <br>「そうですね。でも、ただ監禁するだけなら、内から開けられる鍵なんてつけなきゃいいんです。何か理由があってこんな構造をしているとは思うんですけど……」 | ||
<br> 権田が顔を上げ、小部屋に続くドアの方を見た。正確には、その奥にある倉庫の方を。 | <br> 権田が顔を上げ、小部屋に続くドアの方を見た。正確には、その奥にある倉庫の方を。 | ||
<br> | <br>「ここには、数年くらいなら生きられる設備がある。つまり、奴らは{{傍点|文章=監禁された人間に生きててほしい}}んだ。そうじゃなきゃ、金かけて食料なんて用意するより、放って飢え死にさせる方を選ぶだろう」 | ||
<br>「僕らに生きててほしい……」 | <br>「僕らに生きててほしい……」 | ||
<br> そう考えると、一つ腑に落ちることがある。 | <br> そう考えると、一つ腑に落ちることがある。 | ||
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<br> 真っ直ぐに権田が問いかけてくる。僕は俯いた。どこから話せばいいのだろうか? こんな残酷なことを、どうやって伝えればいいというのだ? 迷った末に、僕は口を開いた。 | <br> 真っ直ぐに権田が問いかけてくる。僕は俯いた。どこから話せばいいのだろうか? こんな残酷なことを、どうやって伝えればいいというのだ? 迷った末に、僕は口を開いた。 | ||
<br>「気づいたのは、脱出方法です。でも、とてもやろうとは思えない方法です。覚悟して、聞いてくれますか?」 | <br>「気づいたのは、脱出方法です。でも、とてもやろうとは思えない方法です。覚悟して、聞いてくれますか?」 | ||
<br> | <br> 権田は驚いた顔をしたが、黙って頷いた。 | ||
<br>「ここには、大量の食料や医薬品、衛生設備までもがあります。前にも辿り着いた結論ですが、奴らは僕らにしばらく生きていてほしい。でも、脱出はされたくない。だから、磁石の部屋なんていう手の込んだ仕掛けがある。では、{{傍点|文章=なぜしばらく生きていてほしいのか}}? そもそも、{{傍点|文章=奴らは僕らに何をしてほしいのか}}?」 | <br>「ここには、大量の食料や医薬品、衛生設備までもがあります。前にも辿り着いた結論ですが、奴らは僕らにしばらく生きていてほしい。でも、脱出はされたくない。だから、磁石の部屋なんていう手の込んだ仕掛けがある。では、{{傍点|文章=なぜしばらく生きていてほしいのか}}? そもそも、{{傍点|文章=奴らは僕らに何をしてほしいのか}}?」 | ||
<br> 一息ついて、また言葉を継ぐ。 | <br> 一息ついて、また言葉を継ぐ。 | ||
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<br>「だから言ったでしょう。とてもやろうとは思えない方法だと」 | <br>「だから言ったでしょう。とてもやろうとは思えない方法だと」 | ||
<br> 権田は絶句していた。でも、僕は事実を押し通さねばならない。 | <br> 権田は絶句していた。でも、僕は事実を押し通さねばならない。 | ||
<br> | <br>「これでわかったでしょう? この建造物の正体は、{{傍点|文章=セックスしないと出られない部屋}}なんですよ」 | ||
<br>「セッ……そんな……」 | <br>「セッ……そんな……」 | ||
<br> | <br> 権田の整った顔が赤く染まったのが、闇の中でも見えた。思わず僕は権田の両肩を掴んで、マットレスに押し倒す。ボブカットの黒髪がふわりとシーツに広がり、ぱっちりした両眼が驚きに揺れる。いくら鍛え上げているとはいえ女の細腕では、同じく警察官の僕を押し退けることはできない。僕は、権田の腰にまたがった。権田が小さく声を洩らす。マットレスが軋み、薄着の下の乳房が魅力的に揺れる。 | ||
<br>「これが、脱出する唯一の方法なんです。……先輩、いいですか?」 | <br>「これが、脱出する唯一の方法なんです。……先輩、いいですか?」 | ||
<br> ほのかな灯りの下、権田の目の奥が、微かに揺らいだ。 | <br> ほのかな灯りの下、権田の目の奥が、微かに揺らいだ。 |
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