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<br> 夫妻の妻の方、綾子さんは割烹着に足袋という出で立ちだった。会うのは二年ぶりのはずだが、この衣裳が似合いすぎて、むしろ既視感すら覚えるほどだった。
<br> 夫妻の妻の方、綾子さんは割烹着に足袋という出で立ちだった。会うのは二年ぶりのはずだが、この衣裳が似合いすぎて、むしろ既視感すら覚えるほどだった。
<br> 軽く挨拶を交わしながら、綾子さんに先導されてまっすぐな廊下を奥へと向かう。並んだ襖は松の意匠が施されたもので、和の雰囲気を感じさせる。家屋は古民家を改装したとは思えないような綺麗さだった。
<br> 軽く挨拶を交わしながら、綾子さんに先導されてまっすぐな廊下を奥へと向かう。並んだ襖は松の意匠が施されたもので、和の雰囲気を感じさせる。家屋は古民家を改装したとは思えないような綺麗さだった。
<br> 廊下を突き当たると、建物の横幅いっぱいを占める大部屋があった。襖を開けて、畳のへりを跨ぐ。そこでは、大勢の人たちが寛いでいた。横に長い大部屋の中央には、やはり横に長い木の大机がある。人々はそれを囲んで、陽気に語らいあったり何かをつまんだりしていた。机の上には、和菓子や小料理、ちょっとした酒類も並んでいるようだ。時刻は午後五時前だが、ちょっと早い酒宴を開いているのだろう。向かいの長辺は縁側になっており、谷川がずっと遠くまで伸びているのがよく見えた。
<br> 廊下を突き当たると、建物の横幅いっぱいを占める大部屋があった。襖を開けて、畳のへりを跨ぐ。そこでは、大勢の人たちが寛いでいた。横に長い大部屋の中央には、やはり横に長い木の大机がある。人々はそれを囲んで、陽気に語らいあったり何かをつまんだりしていた。机の上には、和菓子や小料理、ちょっとした酒類も並んでいるようだ。時刻は午後五時前だが、ちょっと早い酒宴を開いているのだろう。向かいの長辺は縁側になっており、庭に降りることができる。見晴らしがとても良く、谷川がどんどん太くなって地平線の果てまで伸びているのが見えた。
<br> 僕は見知った顔を見つけ、部屋の右隅に向かった。
<br> 僕は見知った顔を見つけ、部屋の右隅に向かった。
<br>「やあ、高島さん。久しぶりだね」
<br>「やあ、高島さん。久しぶりだね」
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<br>「結構広いし、物好きなお金持ちの邸宅なんじゃないですか?」
<br>「結構広いし、物好きなお金持ちの邸宅なんじゃないですか?」
<br>「あ、ありそう」
<br>「あ、ありそう」
<br> そんなことを話しながら、
<br> そんなことを話し、お茶を飲む。会話が途切れた隙間を縫って、綾子さんと従業員の一人の話が聞こえてきた。
<br>「和希くんが来たから、あとは種岡さんとこだけね」
<br>「全員お揃いになったら、料理を運べばいいんですね?」
<br>「あ、その前に主人がちょっと話すから、合図があるまで部屋の外で待っていて頂戴」
<br>「わかりました」
<br> 二人はまた厨房へと戻っていった。太陽は、中天から降りつつあった。


==狩人==
==狩人==
 俺は道明庵の見取り図をもう一度丹念に確認した。カフェがある平地は崖の中途にあり、北に崖を背負い、その他三方は30メートル下方を渓流が流れる崖。平地に出入りできる唯一のルートは、東にある吊り橋のみ。
<br> 建物は、東西に長い長方形をしている。短辺10メートル、長辺50メートルほど。橋の正面に玄関。そこから伸びる廊下の一本は、建物はまっすぐ貫いている。
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