8,864
回編集
編集の要約なし |
編集の要約なし |
||
149行目: | 149行目: | ||
「乱暴な推理だ」 | 「乱暴な推理だ」 | ||
「推理じゃない。ただの妄言さ。……で、ダイイングメッセージが暗号でないとするなら、これはただの意味不明な文章だ。筆跡は被害者のものだが、錯乱して書いたとは考えづらい。ならば答えはこうだろう――『犯人が捜査の攪乱のために被害者に書かせた、無意味な文章』。これが俺の考える真相だ」 | |||
藤原が言い終わるのと同時に、またハトの鳴き声がした。鳩時計は午後四時を指している。 | 藤原が言い終わるのと同時に、またハトの鳴き声がした。鳩時計は午後四時を指している。 | ||
195行目: | 195行目: | ||
赤田は黙って、酒井の顔写真を内ポケットに戻した。そこには、彼なりの旧友への憐憫があった。 | 赤田は黙って、酒井の顔写真を内ポケットに戻した。そこには、彼なりの旧友への憐憫があった。 | ||
「いつものように応対をし、調査を請け負って……客が帰った後でようやく気付いたんだ。この顔写真は、この浮気を疑われている男は、紛れもなく、あの憎くて憎くてたまらない酒井輝なんだと。――いままで封じ込めていた憎悪が爆発した。こいつのせいで俺は夢を諦めた。俺の人生は変わってしまった。何もかもこいつのせいだった。だから、だからあのとき、俺は……酒井を殺すことにしたんだ」 | |||
藤原はどこか遠くを見ているようだった。赤田は重い表情で手錠を取り出し、言った。 | 藤原はどこか遠くを見ているようだった。赤田は重い表情で手錠を取り出し、言った。 | ||
201行目: | 201行目: | ||
「もう逮捕状は出ている。俺は今日、お前をとっ捕まえるために来たんだぜ。……ずいぶんと無駄話をしちまったが。あー、そういうことで……藤原。お前を殺人の容疑で逮捕する」 | 「もう逮捕状は出ている。俺は今日、お前をとっ捕まえるために来たんだぜ。……ずいぶんと無駄話をしちまったが。あー、そういうことで……藤原。お前を殺人の容疑で逮捕する」 | ||
大人しく両腕を差し出し、藤原は手錠を掛けられた。同時に、彼の唇が震えた。何かを言おうとしたのか、しかしそれをためらい――否、言う。 | |||
「――なあ、赤田。最後に一つだけ……聞きたいことがある」 | |||
「なんだ?」 | 「なんだ?」 | ||
「くだらないことさ。あの『ダイイングメッセージ』の『塗料』は……酢だったのか? 醤油だったのか? それとも味噌だったのか?」 | |||
鳩時計の秒針の音は、少し柔らかくなったようだった。 | |||
「ああ……醤油だったよ」 | 「ああ……醤油だったよ」 | ||
{{vh|vh=10}} | {{vh|vh=10}} | ||
{{曖昧さ回避|「'''料れのさしすせせ'''」あるいは「'''醤油が見えない探偵'''」|'''料理のさしすせそ'''|料理のさしすせそ}} | {{曖昧さ回避|「'''料れのさしすせせ'''」あるいは「'''醤油が見えない探偵'''」|'''料理のさしすせそ'''|料理のさしすせそ}} |
回編集