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(むうう) |
(ぐおお) |
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わたしは思わずスマホを放り投げた。リビングの壁にぶつかって固い音を立てたけど、それでも声は流れ続ける。 | わたしは思わずスマホを放り投げた。リビングの壁にぶつかって固い音を立てたけど、それでも声は流れ続ける。 | ||
「今、あなたの家の前の角にいるの」 | 「今、あなたの家の前の角にいるの」 | ||
そしてプツリと電話は切れた。後には、呆然と立ちすくむわたしだけが残された。体に力が入らない。 | |||
何かが来る。もうすぐそこまで来ている。すぐにここまでやってきて……そしてどうなるのだ? | 何かが来る。もうすぐそこまで来ている。すぐにここまでやってきて……そしてどうなるのだ? | ||
いや、そんなことより、助けを呼ばないと。何か恐ろしいことが起こっているのは間違いないのだ。警察を呼ぼう。誰か大人に来てもらわないと。 | いや、そんなことより、助けを呼ばないと。何か恐ろしいことが起こっているのは間違いないのだ。警察を呼ぼう。誰か大人に来てもらわないと。 | ||
39行目: | 39行目: | ||
わたしは悲鳴を上げた。取り落としたスマホから、メリーさんの声が流れる。 | わたしは悲鳴を上げた。取り落としたスマホから、メリーさんの声が流れる。 | ||
「今、あなたの家の前にいるの」 | 「今、あなたの家の前にいるの」 | ||
通話が途絶え、わたしは床にへたりこんだ。涙が出てくる。体に力が入らない。何? なんなの? 何が起こってるの? | |||
──あなたの家の前にいるの | |||
見慣れた玄関が、おぞましいものに見えた。あの扉の後ろには、わたしに捨てられた人形がいて、今にもドアを開けて入ってくるんじゃ……。 | |||
確かめなきゃ。わたしはふと思った。玄関の外に、本当に誰かがいるのか。わたしはスマホを掴むと、ふらふらと立ち上がり、玄関に向かった。鍵は閉まっているし、チェーンもかかっている。大丈夫だ。自分にそう言い聞かせながら、ドアへゆっくりと近づいていく。 | |||
ついに、わたしは扉の前にたどりついた。心臓は音が聞こえるくらい激しく動いている。わたしは意を決して、そっとドアスコープが覗いた。 | |||
ドアの外には──何もいなかった。ただただ蛍光灯に照らされた廊下がのびているだけだった。 | |||
「なんだ、誰もいないじゃない」 | |||
わたしは大きく息を吐いた。体中の緊張がほぐれていく。 | |||
その時、声が聞こえた。 | |||
「あたし、メリーさん」 | |||
はっとスマホを見たが、画面は暗いままだ。……ってことは、この声は……。 | |||
「今、あなたの後ろにいるのおおおぉぉぉ!」 | |||
恐ろしい声が響きわたり、わたしは思わず振り向いてしまった。どす黒い空気をまとった人形と目が合った。わたしは震えながらへたり込んだ。心臓が鷲掴みにされたように跳ね回り、背中が冷たくなっていく。わたしは悲鳴を上げようとしたが、喉がかすれて声すら出ない。 | |||
人形がぐわっと口を開いた。するどい牙がむき出しになる。 | |||
「きゃああああああああ!」 | |||
ふと、人形の姿がかき消えた。わたしは口をパクパクさせたまま取り残された。さっきのおぞましい雰囲気が噓のように消え去っている。 | |||
そこで、わたしは自分がマスクを外していたことに気づいた。もしかして、メリーさんはびっくりして帰ってしまったのだろうか。 | |||
わたしは一気に脱力した。そして、人形から見ても私は醜いのかと、口裂け女であるわたしは少しがっかりした。 |
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