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<br> 血の気がさあっと引いて、両手が勝手に震え始める。脇から背中にかけてが凍るかと思うほど冷えて、喉が固まった。声が出せずに私は立ち尽くすしかなかった。英文が見えなくて、口が開かなくて、周りの視線ばかり感じられて、涙が出そうになった。 | <br> 血の気がさあっと引いて、両手が勝手に震え始める。脇から背中にかけてが凍るかと思うほど冷えて、喉が固まった。声が出せずに私は立ち尽くすしかなかった。英文が見えなくて、口が開かなくて、周りの視線ばかり感じられて、涙が出そうになった。 | ||
<br> 迷惑。時間の無駄。構ってほしいんでしょ。 | <br> 迷惑。時間の無駄。構ってほしいんでしょ。 | ||
<br> | <br> 昨日見た言葉が、私の喉を塞いだ。言葉を奪った。クラスの誰もが私の悪口を言っていた可能性があるという事実ゆえに、クラスの全員がいま心の中で私を罵倒しているように感じた。ますます寒気がした。 | ||
<br>「どうした河北?」 | <br>「どうした河北?」 | ||
<br> 槙原先生の言葉にも反応できなかった。文を読まないといけないのに、息をうまく吸えない。 | <br> 槙原先生の言葉にも反応できなかった。文を読まないといけないのに、息をうまく吸えない。 | ||
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<br> ''14:33 檸檬『毎日やるのかな?』'' | <br> ''14:33 檸檬『毎日やるのかな?』'' | ||
<br> たまらず画面を暗くした。スマホをベッドの端に投げ、袖を目の上に当てた。みじめなのか申し訳ないのか、自分でもわからない涙が出てきて、声を我慢するしかなかった。こんなときだけは音が出てくる自分の口が、恨めしくて仕方がなかった。 | <br> たまらず画面を暗くした。スマホをベッドの端に投げ、袖を目の上に当てた。みじめなのか申し訳ないのか、自分でもわからない涙が出てきて、声を我慢するしかなかった。こんなときだけは音が出てくる自分の口が、恨めしくて仕方がなかった。 | ||
<br> | <br> 和佳さんの「なんでも言ってね」という言葉と、自分のふがいなさを詫びるような表情を思い出した。 | ||
<br> 私が陰で言われていることを話そうかな、と思った。話してどうなるものでもないかもしれないけれど、せめて楽になりたかった。実際何か行われたのかはわからないけれど、少なくとも、この二日間で私に手を差し伸べてくれたのは、彼女だけだった。そして私は、その手にすがらないと耐えられそうになかった。 | |||
<br> 明日話そう。そう決めた。そのとき、和佳さんにまだ保健室まで付き添ってくれたお礼を言っていないことに気がついた。これも明日伝えよう。体の震えは少しだけ収まっていた。 | |||
<br> けれど次の日、和佳さんは学校を休んだ。そして、私の心は折れてしまった。 | |||
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